トーラムオンライン サイドストーリー
と、安楽椅子はそれまでの動きがウソだったかのようにピタリと停止した。どこから見ても普通の高級な椅子にしか見えない。その下からほうほうの体で這い出してきたペルルは、フィレーシアの近くまで這って来て、
「い…いったい何だったのよ、これ…」
へたり込んだ所へ、フィレーシアが椅子から外したハート型のブローチのようなものを見せる。
「魔法人形の心臓です…」
フィレーシアから渡されたその物体をしげしげ眺めながら、
「魔法人形の…心臓??何それ?」
ペルルの手からそれをつまみ上げて握りしめた後、フィレーシアは一方へ歩きながら、
「魔法人形の心臓を取り付けられた物体は生き物のように動く事ができるようになるのです…この椅子には元々そのようなものはついておりませんでしたし、そもそも屋敷の中には魔法人形の心臓は一個も存在しておりません。おそらく、何者かが忍び込んで椅子に取り付けて行ったのでしょう…いったい誰が、何のために…」
考え込むフィレーシアの横で、ペルルがようやく気がついたバルセットを起こしながら、
「だけどまあ、暴れ出す椅子の謎もわかったし、事件は解決よね?それじゃ、あたいは王宮に戻る事にするわ…風来坊、あんた、どうする?」
と言いながら歩き出すのを、
「お待ちくださいな。屋敷で起こる怪異はこれだけではないのです。エルバーノ王に申し上げた内容をお忘れですの?」
と、フィレーシアはペルルの腕をつかんで引き留める。
「へ?そ、そうだったっけ?腑抜けてたからちゃんと聞いてなかった…」
と、頭をかくペルルをガシッと小脇に抱え上げて、
「一晩我が家に泊まって頂ければわかります。さ、参りましょう…」

 フィレーシアは屋敷に戻ろうとする。ペルルはあわててバルセットに、
「ちょ、ちょとおっ、風来坊!何とかしてよ‼」
と助けを求めるが、バルセットはにっこり微笑んでフィレーシアに、
「僕も泊めていただいて構わないかな?ちょうど宿がなくて困ってたんだ。もちろん不可思議現象解明のお手伝いもさせてもらうから。」
「あーっ!風来坊‼あんた、あたいを裏切るつもり⁉」
とわめくペルルをしり目に、
「ええ、構いませんことよ。それで不可思議現象を早めに根絶できるなら、お安いものですわ。では参りましょうか。」
とフィレーシアはペルルを小脇に抱え、バルセットを伴って、屋敷へ戻って行く。
「ちょとおっ!あたいは怖いの全般、大嫌いなのよ~‼ぎゃ~っ、離せ~!」
フィレーシアの小脇でジタバタするペルルの叫びが、夕暮れのエル・スカーロにこだました…
「んげ?」

 ペルルは自分のいびきで目を覚ました。辺りを見回すと、豪華なベッドの上に寝ていたことがわかる。そっかぁ、夕べはこの屋敷中で暴れ回る家具に付けられた魔法人形の心臓を取り外すのに大騒ぎだったんだっけ…それにしても、なんで暴れる家具たちはあたいだけに寄ってきたんだろ?追っかけられるわ、じゃれつかれて揉みくちゃになるわで、全身痛くてしょうがないわ。まあ、おかげでよく寝れたけど…などと考えながら時計を見ると、もう昼に近い。そういや朝ご飯、誰も呼びに来なかったわね。あたいが気がつかなったのかしら…首をひねりながら、ペルルは着替えを済ませてドアを開けたが、その瞬間、飛び込んで来たフィレーシアと鉢合わせになった。
「きゃっ!あ、ペルルさん。今、お迎えに上がろうと…大変なんです、来てください‼」
「へ?何…わわわわーっ‼」

 フィレーシアの小脇に抱えられ、ペルルは屋敷の奥にある大広間へと連れて来られた。広間の入口にはバルセットが立っている。
「やあ、おはよう。食事はまだかと思って来てみたんだが、それどころじゃないみたいだね…」
と、扉の外から大広間の中を指す。フィレーシアから降ろしてもらったペルルは、
「あたいはフィレーシアさんに連れて来られただけでよくわかんないんだけど、一体何が…」
と言いかけながら、扉の中を覗いて息を呑んだ。大広間の中では、屋敷の使用人たちが折り重なるように倒れている。
「げ⁉あばばばば…み、みんな倒れて…たたた、大変じゃん!」
ペルルが部屋の中へ飛び込もうとするのを、バルセットが制し、
「あわてないで。ほら、よく見て…」
注意深く覗き込む。ペルルも同じように観察してみると、倒れた人々から寝息やいびきが聞こえてきた。思わず驚きと呆れの声が出る。
「ね…寝てるぅ~⁉」
「単に寝てるだけじゃないようだ…ほら。」
バルセットに言われて、さらによく見てみると、皆、顔に脂汗と苦悶の表情を浮かべている。
「??…えっと…うなされてる?」
「うん。少なくとも、楽しい休暇の夢を見てるようには見えないね…」
バルセットもペルルの言葉にうなづきながら、注意深く様子を見ている。そこへ、気が気ではない様子で見ていたフィレーシアも近づいて来て、
「以前、起こった現象と同じですが、一度にこれだけの人数が倒れるのは初めてです。どうすれば…とにかく皆を助けねば!」
「いけない!うかつに中に入ったら‥」
制止するバルセットを振り切ってフィレーシアは大広間に飛び込んだが、その途端、床に倒れ込み、やがて苦しげな表情を浮かべてうなされ始めた。
「あっちゃ~…」
「これは…たぶん、近寄った人間を眠らせて悪夢を見させる何かが、どこかにしかけてあるに違いない…それを探さないといけないけど…」
バルセットの言葉を聞いて、ペルルは少し腕組みして考えた後、
「でも、部屋に入ったら、速攻寝ちゃうじゃない。どうすんの?」
とつっこむ。バルセットも腕組みして考え込むが、何か思いついたらしく、
「ちょっといいこと思いついたから、耳を貸してくれるかい?」
数分後、二人は大広間の中をフラフラしながら、あちこち探し物をしていた。と、ふらふらと倒れそうになるペルルの頭を、バルセットが思いっきりはたく。恨めしそうな顔をしながらも、目が覚めたペルルが辺りを見回しながらふと気づくと、今度はバルセットが立ったまま睡魔に襲われている。すかさず、ペルルはバルセットのむこうずねに回し蹴りを叩きこむ。脚を抱えて飛び跳ねながらも、バルセットは意識を取り戻した。
「あんたの発案だから、どうせろくでもないもんだろうと思ってたけど、もう少しましな案はなかったの?」
ぶーたれるペルルを見て、バルセットはケロッとした顔で、
「どうして?二人いるんだから、起きてる片方が寝ている片方を起こすのが理にかなってるじゃないか?何かご不満な点でも?」
と笑っている。その能天気な様子に、ペルルはジタバタ暴れながら、
「ご不満だらけだわよ‼交互に眠くなってるうちはいいわよ。お互いに起こせるから。けど!同時に強~い眠気が来たらどうするつもりよ⁉そうなった…ら、誰…が起こして…ぐー…」
「ペルル?…ヤバい!寝ちゃだめだ‼」
前かがみになったペルルは、バルセットの声に驚いてのけぞり、そのままバランスを崩して後ろの大広間の壁へ頭から突っ込んだ。大きな音と共に建材の欠片や土ぼこりが舞い上がる。
「ペルル‼大丈夫かい⁉」
バルセットの叫びに応えるように、もうもうと舞い上がった土ぼこりの向こうからペルルが咳込みながら姿を現す。
「げっほげほっ!何よいきなり…あ、そっか。あたい寝て倒れちゃったんだ…って、げ‼」
土ぼこりが収まったその先に見えたのは、大きく穴が開いた大広間の壁だった。
「あ~あ、やっちゃったぁ…立派な壁にこんな大穴開けちゃって、弁償いくらかかるのよ…」
呆然としていたペルルだが、辺りを見回し、フィレーシアたちがまだ眠っているのを見て、
「バルセット!みんなが目を覚まさないうちに逃げましょ、早く‼」
だが、バルセットは壁の穴を見つめて、
「待って。ここ、前に穴が開けられてる…見た目はわからないけど、元々の壁とは違う安い材料で開けた穴を塞いでたんだ…ん?あれは…壁の中に何か…」
と言うと、壁の中に身を潜らせ、何かを取り出した。ペルルも近寄って見てみると、何やら邪悪な気を放出している不気味な色の結晶だ。見る見るうちにペルルのまぶたが閉じかける。「ふぇ~…はっ⁉ダメダメ!寝ちゃうとこだわ!ねえ、ここのみんなを眠らせてるのって、こいつの仕業じゃない?」
ペルルの言葉にバルセットもうなづき、
「とりあえず、フィレーシアさんにこいつの心当たりを聞いてみよう!」

 バルセットが近くで眠っているフィレーシアを抱きかかえ、頬を軽く叩いて起こす。
「あ、あら?わたくしは一体…」
いまいち状況が飲み込めていないフィレーシアのもとへ、ペルルが壁から見つかった結晶を持って来て、結晶の作用で出る大きなあくびを噛み殺しながら聞く。
「ふあぁ…ぅい…これ、そこの壁から見つけたんだけど、心当たりは?」
目の前に結晶を差し出されたフィレーシアは、大きく目を見開いた。
「それは悪夢の結晶ではありませんの⁉」
「悪夢の結晶?」
首をひねるペルルが持つ結晶に、フィレーシアは小声で呪文を唱え、魔法をかけた。見る見るうちに邪悪な気の放出が止まる。目を丸くして驚くペルルに、
「悪夢の結晶は、手にした者が必ず悪夢にうなされるというものなのです。屋敷の者たちが突然倒れたのはこのせいだったのですね…壁の中にあったのですか?なぜそんな所に…」

 つぶやきながら考え込もうとするフィレーシアをバルセットが制する。
「その答えを探す前に、そいつと同じようなものが他にもないか、探す方が先じゃないかい?そいつ一個で、これだけのお屋敷の人を眠らせたとは考えられないからね。」
「パッと見、わかんないけど、大ざっぱに穴開けて、いい加減な資材で穴をふさいでるだけだから、すぐ見つかるわよ。」

 ペルルの言葉を聞いて、フィレーシアも立ち上がりながら、
「この結晶をしかけた犯人が、屋敷にどれだけ損傷を与えたかも確認する事ができますわね…わかりました。この広間の中をくまなく調べましょう!」

 三人は互いに頷き合い、広間の壁を調べにかかった。
「ふぃ~!出るわ出るわ、犯人の奴、どれだけしかけてたのよ⁉」
ペルルの半ば呆れたような声が響く。大広間の探索を始めて約一時間、ペルルたち三人の足元には壁や床から発見された悪夢の結晶がうず高く積まれていた。
「一個だけじゃないとは思っていたけど、まさかこんなにしかけられてたとは…」
バルセットも数の多さに驚いている。フィレーシアが結晶を魔法で無力化しながら、
「とりあえず、悪夢を見させる邪気の放出は止めましたので大丈夫だとは思いますが、念のため、中庭に出しておきましょうか。」
結晶の管理方法を提案するのを聞いて、ペルルは機敏な動作で結晶を集めて抱え上げ、バルセットにも持たせて早くも運び出そうとしている。 「おっしゃ、中庭ね!どこから出るの?」
「中庭へは、そこにあるドアから出られますから、どうぞ。」
フィレーシアの言葉に従って、ペルルが中庭へ通じるドアを開け、外へ出ようとした瞬間、
「ふんぎゃーっ‼」
ドアの向こうからなだれ込んで来た何かに押し流され、埋まってしまった。あわててバルセットが掘り起こして助ける。
「大丈夫か⁉しっかりして!…何だこれは⁉これも…結晶⁉フィレーシアさん‼」
なだれ込んできたのは悪夢の結晶ほど大きくはないが、おびただしい数の赤黒い結晶だった。呼ばれて駆け寄って来たフィレーシアは、その結晶を見て心底驚いた表情で立ち尽くす。
「し、侵食の結晶⁉」
気がついたペルルが外を見ると、中庭は一面結晶で埋まり、それが室内へ押し寄せてくる。
「わっ⁉何よこれぇっ‼」
それだけでなく、室内になだれ込んだ結晶が次々に増殖して部屋を埋め尽くそうとしていた。
「こうしちゃいられない‼フィレーシアさん!この結晶も無力化する事できますか?」
「あ…は、はいっ‼」
バルセットの言葉に我に返った様子のフィレーシアが小声で呪文を唱え、大きく手を振ると、部屋の中にある赤黒い結晶は増殖を停止した。
「侵食の結晶は粉々に砕くと増殖できなくなります。今のうちに破壊してください‼」
「よし!結晶を砕くよ!ペルルも手伝って‼」
「って、言われたって、あたい武器も何も持ってないわよ⁉」
おろおろするペルルを見たフィレーシアが小声で呪文を唱えると、屋敷のどこかから大きなハンマーが飛んで来て、その右手に収まった。
「それなら使いこなせますか?」
尋ねるフィレーシアに、ペルルは両手でハンマーを構えながら、
「重すぎないし、柄も長くて振り回しやすいじゃん。上等!んじゃま、ひと暴れさせてもらいましょ…うぉりゃぁぁぁあああっ!」
と言うが早いか、部屋にあふれた結晶を次々と粉砕してゆく。その目はいつしか、失っていた活力を取り戻しつつある。バルセットはそれに気づき、ほほ笑んだ。
あっという間に広間の中に会った結晶を砕き切って、ペルルとバルセットが中庭に躍り出てからしばらくの間、フィレーシアの屋敷の外まで結晶を砕く音が響き渡っていた……
「ぜーっ、ぜーっ…これで…結晶は全部…砕き切れたのかしら?」
結晶と格闘を始めて三時間後、中庭を埋めていた侵食の結晶の増殖をフィレーシアの魔法で止め、それらをペルルとバルセットが粉砕した結果、すべての結晶を砕く事に成功した。ペルルだけでなく、バルセットとフィレーシアも少し離れた所で息を切らして疲れ切っている。
「はぁっ、はぁっど…どうやらそのようだね…いやぁ、疲れた…ところで、これ…どうする?」
バルセットが汗を拭きながら尋ねる。床に座り込んだフィレーシアが辺りを見回すと、砕いたかけらがうず高く積もっている。
「はあ…そうでした。砕いても細かくなるだけで、量は変わりませんものね…屋敷の中に置いておくと、邪魔な上に美観を損ねますし…」
頬に右手を当てて考え込むフィレーシアに、ようやく立ち上がったペルルが近づき、
「砕いて増えなくなったっつっても、何が起こるかわからないから、ここに置きっぱはマズいわね。やっぱ、街からなるべく離れた場所へ放り出すに限るっしょ?」
と両腕を腰に当てる。それを見てバルセットも立ち上がってフィレーシアに近づき、
「よし、それじゃ、砕いたかけらを一か所に集めるところから取りかかろうか。部屋の物陰や、庭の隅に残さないようにね。」
三人は散開して、屋敷中に散らばった結晶のかけらを集め、数時間後には麻袋数十個に詰めたかけらを数台の荷車に乗せ終えていた。

 屋敷の使用人に荷車の御者をやってもらい、ペルルはその横に座りながら、
「じゃあ、お屋敷の人と荷車借りるわね。結晶捨て終わったら、あたいたち、お屋敷には戻らずに歩いて街に帰るから…あ、そうそう、これ返しとくね。」
ペルルは結晶を砕くのに使ったハンマーをフィレーシアに渡そうとするが、彼女は首を振り、
「それはペルル様に差し上げます。これからの冒険に役立てていただければ…その方が、ハンマーも活躍できるでしょう…それではお気をつけて!」
フィレーシアに見送られ、荷車は屋敷を出発し、街の外へ出るべく大きな通りに出た。と、その時、ペルルは通りに立って荷車を見つめる女性に気がついた。荷車が近づくにつれて 険しい表情でにらみつけているのがわかる。そして荷車が彼女のそばを通り抜ける際、聞こえてきた言葉に、ペルルは耳を疑った。
「ちっ!イブリン…あのかっぺ娘が‼」
思わず振り返る。が、その女性の姿は煙のように消えていた…
「えーっ⁉このまま旅に出発するって、風来坊…あんた、そんな急に…」
砕いた結晶を流浪の平原の片隅に廃棄し終わったところで、バルセットが口にした言葉に驚いて、ペルルは思わず甲高い声を出した。
「お手伝いの約束は、フィレーシアさんのお屋敷で起こってる現象が解決するまでって事だったからね。考えてたよりもいろいろあったけど、もう大丈夫だろうし…」
そう言ってバルセットは、ペルルの頭を帽子の上からワシャワシャと撫でながら、
「…君も大分元気を取り戻したみたいだから、僕はお役御免って事でいいでしょ?」
「む~っ‼何一人で勝手に決めてるのよ…あっ⁉」
帽子を戻したペルルが辺りを見回すと、バルセットは既にかなり離れた場所で手を振っていた。
「もーっ、最後まで勝手なんだからぁ‼…でもま、ありがと…」
言葉の最後が聞き取れなかったのかのように、聞き返すふりをするバルセットに、ペルルは舌を出しながら「行け」と合図する。微笑みながら背を向けて歩き出した風来坊の姿は次第に遠ざかり、やがて一つの点となって平原の向こうに消えていった…。

 フィレーシアの屋敷の使用人たちが載った荷車が屋敷へ戻るのを見送った後、ペルルが一人でエル・スカーロの王宮へ戻った頃には、すっかり夜になっていた。
王宮に戻って来たペルルを、衛兵たちも引き留めずに奥へと通す。ほどなくペルルは王の間の前に立った。中へ入ろうとしたところで何か話し声がするのを聞き、あわててノックをする。
「何用だ?」
エルバーノ王の凛とした声が響く。それを聞いて、
「ペルルでぇす。フィレーシアさんのお屋敷の不思議な現象が全て解決したから戻って来ましたぁ。」
ペルルも大きめの声で報告する。ほどなくエルバーノ王が自ら扉を開けて彼女を迎えた。
「おお、戻ったか!フィレーシアからも、解決の報告を受けてはいたが、そなたが騒動のもとになった結晶の欠片を廃棄して戻るまで、気をもんでいたのだ。さあ、中へ入るがいい。」

 王の間の中へ入ると、見覚えのある一組の男女がいる。二人を見たペルルは思わず、
「あれっ⁉トリエルさんにバルフトさんじゃん‼」
大声を出してしまった。その声の大きさに驚いて、トリエル、バルフトも思わず振り向く。
「おっ、おまえは冒険者にくっついてた…えっと…そうそう、ペルルじゃないか‼」
「エルバーノ王から伺いました…冒険者様に関しまして、何と申してよいやら…」
悲しげに俯くトリエルを見て、ペルルも思わず顔が歪むが、すぐにニカッと笑い、
「なぁに言ってんの!あいつの無茶に振り回される日々から解放されて、せいせいしてるわよ。それより、旅の騎士二人がどうして王宮に?王様の力を借りなきゃならない事でも?」
と問うペルルに、バルフトは少し動揺したような様子を見せて、
「い、いや、我々だけでも解決できなくはないんだが…なあ、トリエル?」
と言うのに対し、トリエルは落ち着いた様子で、
「ええ、街の方たちから聞いたある事件に関して、王様に何らかの対策を講じてほしいとお願いに上がったところだったのです…」
と微笑む様子を見つめながら、ペルルは彼らと会うたびに気づいていた、何か秘密を隠している雰囲気を感じ取ったが、エルバーノ王が新たな会話を切り出したため、追及を止めた。
「フィレーシア邸の怪異だけでも十分特異な事件だったのだが、彼らからの報告では、夜半に街の各所で木彫りの人形が現れては不気味に踊り狂う事件が発生しており、その不気味な踊りに悩まされて眠れない住人が続出していると言うのだ…ちょうど夜も更ける頃だ。戻ってきたばかりで悪いのだが、バルフト、トリエルと共に事件を解決してはもらえんか?」
「ちょ、ちょっと待って。この事件に関してはバルフトさんとトリエルさんがいりゃ大丈夫でしょ⁉それに…あたい、踊る人形みたいな怖い系のものは勘弁してほしいんだけど…」
エルバーノ王に頭を下げられても、幽霊や妖怪の類はどうしても無理だ。ペルルは尻込みして断ろうとする。が、
「何言ってるんだ‼一つ怪事件を解決したんだろ?だったら一つも二つも同じじゃないか。ほら、行くぞ!」
と襟首をバルフトにつままれたかと思うと、ペルルはヒョイと彼の小脇に抱えられ、そのまま王の間から退出する。あっけにとられてしばらくなすがままだったが、ハッと我に返り、
「ぎゃ~っ、離せ~!」